2022/12/19

女性医師の産休・育休の実態とは?現場復帰ストーリーからわかる現状

医師の数は増加傾向にあり女性医師の割合も増えていますが、30~39歳をピークに減少することがわかっています。家庭や子育てとの両立の難しさから、キャリア形成の大事なタイミングで離職をしてしまう方が多いためです。

平成29年8月 日本医師会男女共同参画委員会「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」では、出産経験のある女性医師のうち、育児休業を取得したのは59.1%でした。女性の育児休業取得率(全産業平均)は83.2%(厚生労働省調査 *1)のため、女性医師は育児休業の取得率が低いと言えます。
*1 男性の育児休業取得促進等について | 厚生労働省

医師の場合、専門医資格を維持するためには専門科に常勤で勤務する必要があります。そうでなければ資格を更新できないためです。これが育休の取得率が低いことの要因の1つであると考えられます。


【今回お話いただいたのは…】

麻酔科専門医 Y先生
  • 2012年 公立大学医学部卒業
  • 2014年 卒業大学の麻酔科医局入局。大学時代の同級生、内科医と結婚
  • 2018年 サブスペシャリティ研修として産科麻酔研修。麻酔科専門医試験受験
  • 2019年~ 麻酔科専門医
  • 2020年 出産。現在息子2歳子育て中。フルタイム勤務(当直月2回、残業月4~5回) 

 

これまでに感じた、女性医師としての「壁」

―― では早速ですが、Y先生が医師になるまでのお話をお聞きできればと思います。これまでに感じた壁には、どのようなものがありましたか?

 

Y先生:

医師として働くうえでいくつもの壁を感じました。
まず医学部入学時です。私が医学部を受験した頃「女性は妊娠出産で離職の可能性がある」という理由で、入学時点で男女比をある程度操作しているという公然の噂がありました。

それから入局から専門医取得までの間です。
医局に入局する際の面接で、「キャリアを維持したいのであれば、専門医受験と出産の時期をよく検討するように」とコメントされました。
専門医試験を受験する医師は、各科30歳前後が一般的。妊娠を考える女性にとっては繊細な時期ですが、暗に”専門医取得前に出産するとキャリアを維持できない”と忠告されたのです。

現在ではこのようなことを口に出すのは憚られる時代になりましたが、医療業界では「女性は長期的に戦力にならない。キャリアを維持する気があるのであれば、妊娠は計画的に」という偏った意見が根強く残っています。
心苦しいことに、半分は事実だと思います。

現在、医師の男女比は全体でみると女性医師が23%と少ないですが、29歳以下だけで見れば36%と近年女性の比率が増加しています。*2
しかし、「女性は医師になれるが、医師を続けられない。あるいは続けていくキャリアの方向が(科、働き方という面で)限られる」という状況は変わらないと感じます。

*2 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_kekka-1.pdf

 

―― 学生の頃から、医師を志す女性はそのような噂を聞いていたのですね。これには大変驚きました。
データでも女性医師が医師を続けられないという深刻な現状が見て取れますが、なぜこのような状況が続いているとお考えですか?

 

Y先生:

女性医師が働き続ける事が難しい原因はいくつかあって、

  • 妊娠出産が原因で一時的に休まざるを得ずキャリアが分断される
  • 育児を夫婦のうち妻が担う割合が多かった場合、物理的な要因で仕事を続けたくても続けられなくなる
  • 疲弊したりやりがいを感じなかったりという原因で、仕事を続けるモチベーションがなくなる

このようなことが原因だと思います。

 

―― 育児の負担が女性に集中してしまう点などは、日本の多くの女性が抱える問題と共通していますね。
また、医療の世界は進化が著しいので産休・育休取得後に学び直しをしなければならないという話もあります。
女性医師がこれらの問題を乗り越えるには、どうしたらよいと思いますか?

 

Y先生:

女性医師本人と家庭、職場と社会全体で、

  • 分断したキャリアを維持できるよう、学び直しの手段を構築する
  • 育児の時間的問題を解決できるよう、保育システムを充実させる
  • 多様な働き方を認める職場を医療業界にも増やす
  • 育児中の医師にも希望に応じてやりがいのある仕事を割り振る

が必要になると考えています。

 

女性医師の産休・育休の取得について

 

―― 女性医師が置かれている現状や課題についてお話を聞いてきましたが、実際に女性医師が産休・育休を取得するとなるとどのような流れで進んでいくのでしょうか。
診療科や病院によって異なると思いますが、Y先生のケースをお聞きしたいです。

 

Y先生:

妊娠出産のタイミングは、入局2~3年後から考えていました。

サブスペシャリティ研修と専門医取得のタイミングを待って妊娠した形でしたが、希望通り妊娠が叶うかという不安に常に苛まれていました。幸い、いざ妊娠してからは職場は理解があり、産休育休を取得するには困りませんでした。同時期に産休・育休をとっている先輩もいました。

私は産後産休と育休合わせて8ヵ月取得しましたが、復帰時の勤務制限を交渉するのに1番苦労しました。院内保育に預けての復帰となりましたが、実際にどのようなスケジュールで動けば仕事と育児を両立できるのかイメージするのがとても難しかったです。

同業者の情報が少ないので、親身に相談に乗ってくれたり、復帰の道筋を教えてくれたりするサポートが欲しいと思いました。同じような境遇の仲の良い先輩がいるような環境があれば、とても助けになるのではないでしょうか。

 

―― 研修や専門医取得、そして年齢のことを考えると本当に出産のタイミングが限られ、それだけでもかなりのストレスに苛まれてしまいそうです。
復帰に向けては、相談先もなかったのですね。

 

Y先生:

現場復帰前は、不安でいっぱいでした。8ヵ月は想像以上に長く感じ、仕事に関する知識や頭の使い方がすっかり失われてしまったように感じていたからです。できるだけ勘を落とさないように、論文を読んだり医局のオンライン勉強会に出席したりしていましたが、実際の臨床に役立つ内容を効率よく学ぶ手段を見つけるのが難しかったです。

実際の仕事の勘は働きながら取り戻していった感じで、しばらくは毎日仕事と生活に慣れていくのに必死でした。わからないことは誰にでも聞いて、だんだんと仕事に慣れていきました。

私の職場は先輩のママ女医さんが多かったので、優しく声をかけて支えていただきました。理解のある職場かどうかも重要なポイントだと思います。

 

子育てと現場業務の両立について

―― 産前産後も地道な努力を続けられていたのですね。Y先生のたゆまぬ努力と、先輩方の協力も復帰の実現に繋がったのではないかと思います。
子育てに追われる日々と現場業務については、どのように両立されているのでしょうか。

 

Y先生:

復帰後、育児と仕事の両立は3つの面で難しいと感じています。

1つ目は仕事の時間調整、2つ目は仕事時間外の有効な過ごし方、3つ目は子どもが急な病気の時の対応です。
私の場合、仕事の時間調整は、基本的に定時に仕事をあがらせてもらう、残業や当直をする日は予め決めておいて、お迎えを家族に頼んでおくといったことです。
上司や同僚にはそのような勤務の条件を予め伝えておき、協力していただいています。残業の回数の限度なども設定しておく必要があると思います。
結果的に、定時に終わりやすい仕事にあたることや、それが無理であれば仕事を引き継いでもらうことも増えてしまいました。職場の先生方には勤務の調整、引継ぎなどをサポートしていただいています。

仕事時間外も育休復帰後は大きな変化があります。
帰宅後の自由時間が少なく、仕事の準備や勉強のためには睡眠時間を削って捻出するか、日中の隙間時間を有効活用する必要があります。非常に効率の良さを求められます。
また、子どもの小さい時期は特に、急な呼び出しが頻繁にあります。私の当直や残業の日の迎え、急な呼び出しの対応は家族にサポートをしてもらっています。病児保育への登録は必須ですが、風邪の流行期などで預けられない時や、呼び出しには実母や義母にも協力してもらっています。病児保育だけでは対応できないのが現実です。これらをクリアする事が、育児と医師の両立のために必要です。職場と家族の理解とサポート、時間を有効に使うための工夫が不可欠となります。

私は、幸いなことに職場で複数のママ医師に相談でき、家族のサポートも受けられる状況です。それでなんとか両立できているのだと思います。

 

―― お話を聞いているだけで、目まぐるしい日々が目に浮かぶようです。職場の理解、そしてご両親のサポートもあって両立ができているのですね。
どんな女性医師も、同じように誰かのサポートを受けられる仕組みがあったらいいのですが…

 

専門医の取得について

―― 話が少し戻りますが、妊娠出産は専門医の取得後に計画され、希望通り叶ったとお話いただきました。
女性医師がキャリアを形成していくうえで、このタイミングならではのメリットやデメリット、専門医取得のための勉強法についてお話いただきたいです。

 

Y先生:

私の場合、専門医資格をできるだけ早く取得し、その後妊娠出産を目指す形を取りました。最短で専門医資格を取得できるように、経験症例が不足しないか、書類の提出に不備がないか、経験年数が間違いなく足りるのかに気を配りました。試験対策はごく一般的な過去問対策と口頭試問の練習を行いました。

妊娠前に専門医取得をするメリットは、時間的制約なく必要症例を集め試験対策ができること。デメリットは妊娠出産の時期が遅くなること、せっかく得たキャリアや経験を、育休で一度リセットされる感覚になることです。
自分が経験してわかったことは、どのタイミングで専門医やサブスペシャリティ研修をしても、取得して終わりではなく、スキル維持のための勉強を継続しなければならないことです。一方で、出産後の私生活も全く違うペースが続くので、時間とモチベーションの確保がとても難しいです。重要なのは産後も学び続けられる体制を作ることだと感じます。

専門医取得と出産や子育ての時期がかぶってしまう先生をみていると、育休の長さ次第で容易に1年受験時期がずれてしまう、勉強の時間が確保できない、必要症例を集めるための専門施設の研修が足りないなどの問題が起きます。しかもそれを自分で解決しようと努力していました。職場に相談して症例をあててもらったり、研修を積ませてもらったりして経験数を稼ぎ、勉強時間は自分で捻出しているようです。解決できないことはないと思いますが、至難の業ですし、職場の理解も必要です。

また、受験者には育児がない人のほうが多いため、似た状況の人が周囲にいるとは限りません。自分のケースを自分の力で解決する能力が必要になります。特に専門医制度が目まぐるしく変化していて、少し前の先輩の経験が生かせないことも多く、専門医取得をあきらめる先生もいるのが現実です。壁を超えるためのエネルギーと時間が必要だと感じます。

 

―― 専門医の取得も、出産を考えている女性医師にとっては様々な面でハードルが高いということがよくわかりました。ご自身の不断の努力に加えて、職場の理解も必要となると…モチベーションが維持できず、医師の道を諦めてしまう女性医師がいらっしゃるのも頷けます。

Y先生、この度は貴重なご経験をお話いただき、ありがとうございました。

 

女性医師のキャリアアップをサポートするドクスタ

ドクスタでは職場復帰を目指す医師の方々向けに「MEC臓器別講座」「MECマイナー講座」を提供しています。
本講座は、職場を一度離れた方向けのリカレント講座となり、医師国家試験で出題されるレベルの内容を中心に、現場復帰に必要な知識の学び直しができるよう構成されています。

この講座では、講師のドクターがピックアップした臨床動画を組み込み、今まで以上に実臨床をイメージしながら学習を進めることができるようになりました。
もちろんスマートフォン・タブレットでも受講可能なので、移動や家事・育児の合間など時間を有効活用することができます。

その他、ドクスタでは専門医試験対策講座も提供しております。
専門医を取得することで、産休育休前の病院に戻るのが難しくても、ワークライフバランスの整った病院や現場復帰への理解のある病院に転職しやすくなるケースもあります。

産休・育休後の学び直しや、専門医取得の際にはぜひドクターズスタディをご活用ください。

 

まとめ

今回は、現役麻酔科専門医で一児の母であるY先生にお話を伺いました。
医学部受験から、就職、そして出産・復帰と、女性医師がキャリアを形成していくハードルの高さを感じていただけたのではないでしょうか。
女性医師のキャリア形成には、ご自身の努力だけではなく現場や周りの方のサポートも必須です。今後も各病院、医療業界、そして社会全体でサポートできるような仕組みが求められます。

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