新専門医制度は2018年に開始され、2022年度に新制度の研修プログラムを修了した専攻医が初めて専門医試験を受けることができるようになりました。新制度の試験問題の傾向と対策や、難易度や合格率の変化に関心のある方も多いでしょう。
この記事では過去のデータを元に、外科専門医試験の合格率や試験対策の方法を解説します。忙しい医師でも効率的に勉強できる試験対策について、理解を深めていきましょう。
外科専門医試験の合格率
新専門医制度によって、外科専門医試験の受験形式が変わりました。研修プログラムや専門医に求められる基準が新しく設定され、合格率に影響が出ています。
ここでは新専門医制度によって専門医試験の合格率がどのように変化したのか解説します。
新外科専門医試験の合格率は97.5%(2023年度)
新制度のもとで初めて実施された外科専門医試験の合格率は97.5%と高い数値となりました。835名の医師が受験し、814名の医師が合格しています。*1 このように高い合格率となった要因の1つが受験形式の変更です。
*1 令和5年度:新制度外科専門医試験の結果について|日本外科学会( https://jp.jssoc.or.jp/modules/specialist/index.php?content_id=88 )
従来の外科専門医試験は予備試験として筆記試験に合格した後、認定試験として面接試験に挑む、という形式でした。しかし、新専門医制度の外科専門医試験は筆記試験のみです。面接試験がなくなったことが合格率に影響していると考えられます。
新専門医制度で面接試験がなくなった理由は、受験資格に日本専門医機構の専門医研修プログラムの修了が加えられたためです。専門医研修プログラム修了時に専攻医はプログラム統括責任者による修了判定を受けますが、この判定が人物考査を兼ねていることから、面接試験の必要性がなくなったのでしょう。
参照:日本外科学会
旧外科専門医試験の合格率は80%ほど
2016年までに医籍を取得した医師は旧制度のもとで研修を行っており、新制度の専門医研修プログラムは修了していません。そのため、新外科専門医試験の受験資格を持っていない状態です。日本外科学会は、こうした医師のために旧制度に対応した外科専門医試験を用意しています。筆記試験に該当する予備試験は2025年度、面接試験に当たる認定試験は2026年度まで実施される予定です。
2022年度に行われた旧外科専門医試験のうち予備試験の合格率は85.6%でした。受験者数104名に対し、合格者は89名となりました。
過去の予備試験の合格率を見ると、以下の通りです。
年度 |
合格率 |
受験者数 |
合格者数 |
2018年 |
82.2% |
1,001名 |
823名 |
2019年 |
82.0% |
953名 |
781名 |
参照:一般社団法人 日本専門医機構 | 日本専門医制度概報【令和3年(2021 年)度版】
合格率は約80%前半です。
なお、認定試験は合格率が非常に高く、全員合格といわれた年もありました。
従来の試験と比較して、新外科専門医試験の合格率が高い原因は形式の変化によるものか、合格最低点の設定が低いためか、問題が易化したためかは一概に言えません。
合格最低点の設定は各学会に任されています。なお、外科学会から合格最低点は公表されていません。合格率が高い傾向が今後継続するかは不確定なため、新しい情報を逃さないようにする必要があります。
新専門医制度下における外科専門医試験について
新制度における外科専門医試験を攻略するためには、外科専門医に求められる基準やその背景を理解することが役に立ちます。新専門医制度の特徴や外科専門医に求められる基準を確認していきましょう。
新専門医制度が導入された背景
2018年以前は各学会が独自の専門医制度を設けていたため、取得するための条件や研修制度は学会ごとにバラバラでした。
その弊害として、専門医の質と取得の難易度の偏りや専門医に対する一般認識と能力にギャップが生じ、信頼性が低下する懸念が問題視されてきました。これらの問題を解消するために制度の見直しが行われ、新専門医制度が誕生しました。
新専門医制度では、第三者機関である日本専門医機構が認定基準を統一しており、専門医の質を揃えることができます。
さらに、日本専門医機構が認めた基幹施設や連携施設を3年間でローテートする「プログラム制」をとっていることも特徴のひとつです。単独施設での研修が認められないことが、専門医の能力向上に貢献しています。従来の研修は「カリキュラム制」と呼ばれ、学会が認めた研修施設で研修するということ以外、ローテーションに関する制限はありませんでした。新専門医制度では取得するための条件や研修制度を細かく設定することで学会ごとの偏りを防いでいるのでしょう。
新しい外科専門医制度における到達目標
新専門医制度の開始に合わせて、外科専門医制度でも新たに到達目標が設定されました。
到達目標を理解すると、外科専門医を取得するためにどのような範囲の勉強や研修が必要なのか、イメージがつきます。
ここでは、日本外科学会が公表している到達目標について解説します。
到達目標1:専門知識
外科診療に必要な基礎知識・病態の習熟、臨床応用ができることが求められます。
そのため、手術に至る疾患の診断、手術に関する人体の生物学的な知識、周術期の合併症など全身管理に関する知識から派生した専門的な理解が必要となります。また、求められる知識は多岐にわたり、中には「重度外傷」「重度熱傷」など専門施設でなければ研修の機会が少ない病気に関する理解も含まれています。
具体的な専門知識の種類は以下の通りです。
(1)局所解剖(2)病理学(3)腫瘍学(4)病態生理(5)輸液・輸血(6)血液凝固と線溶現象(7)栄養・代謝学(8)感染症(9)免疫学 (10)創傷治癒(11)周術期の管理(12)麻酔科学(13)集中治療(14)救命・救急医療
到達目標2:専門技能
知識だけではなく、臨床医として実際に手技を理解し、検査結果を解釈したり必要性を判断したりすることが必要になります。基準として「外科診療に必要な検査・処置・麻酔手技に習熟し、それらの臨床応用ができる」ことが求められています。具体例は以下の通りです。
検査手技について |
- 超音波検査(実施、診断)
- エックス線単純撮影、CT、MRI(適応を判断、読影)
- 上・下部消化管造影、血管造影など(適応を判断、読影)
- 内視鏡検査(必要性を判断、読影)
- 心臓カテーテル(必要性を判断)
- 呼吸機能検査(適応を判断、結果を解釈)
|
周術期管理 |
疼痛管理、輸液・輸血、栄養、抗菌薬治療など |
麻酔手技 |
- 局所・浸潤麻酔
- 脊椎麻酔
- 硬膜外麻酔(望ましい)
- 気管挿管による全身麻酔
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外傷の診断・治療 |
外傷の初期治療、トリアージ、緊急手術の判断など |
外科的クリティカルケア |
- 心肺蘇生法
- 動脈穿刺
- 中心静脈カテーテルの挿入とそれによる循環管理
- 人工呼吸器による呼吸管理
- 気管支鏡による気道管理
- 熱傷初期輸液療法
- 気管切開、輪状甲状軟骨切開
- 心嚢穿刺
- 胸腔ドレナージ
- ショックの診断と原因別治療(輸液、輸血、成分輸血、薬物療法を含む)
- 播種性血管内凝固症候群、多臓器不全、全身性炎症反応症候群、代償性抗炎症性反応症候群の診断と治療
- 化学療法と放射線療法の有害事象
|
初期治療や専門医への転送の判断について |
外科系サブスペシャルティまたはそれに準ずる外科関連領域の初期治療や専門医への転送の判断について |
参照:日本外科学会
新外科専門医試験の対策方法を紹介!
外科専門医は高度な専門知識と専門技能を求められるため、過去問や講義動画を活用して効率よく身につけていくことがポイントとなります。
ここでは、新制度の外科専門医試験の対策方法を紹介します。
旧制度下の過去問で対策可能
新しい外科専門医試験の対策には、旧制度の過去問を使うことが可能です。外科専門医試験範囲について、日本外科学会のホームページには以下のような記載があります。
・「外科領域専門研修プログラム整備基準( PDFファイル )」の到達目標1と2について、MCQ(Multiple Choice Questions:多肢選択式問題)による試験を行います。
・過去5回程度の旧制度における外科専門医予備試験で出題した問題を中心に計100題(上部消化管:15題、下部消化管:15題、肝胆膵脾:15題、心臓+血管:15題、呼吸器:10題、小児:10題、乳腺・内分泌:10題、救急+麻酔:10題)を出題します。
先ほど解説した到達目標1と2の内容について、多肢選択式問題という形式で出題されます。旧制度における5年分程度の過去問で対策できると明記されているため、過去問を上手く活用していきましょう。
日本外科学会の過去問集でも対策可能
新外科専門医試験は日本外科学会が発行している過去問集を購入して対策することもできます。ただし、過去5年分の出題範囲を網羅的に学習するためには複数の過去問集を購入する必要があります。かさばる上に、忙しい医師には勉強する時間がなかなか確保できないという問題があるでしょう。
類題をまとめたり、周辺知識を整理したり、間違えた問題を検索したりといった効率よい学習ができないことから、なにかしら工夫をして勉強することが大切です。隙間時間に効率よく学習したい方はドクターズスタディがおすすめです。
外科専門医試験の対策にはドクターズスタディがおすすめ!
ドクターズスタディでは、新制度の外科専門医試験に対応した講義動画を提供しています。問題集を持ち歩く必要がなく、普段、診療や手術で忙しい医師でも効率良く学習できます。
国家試験対策や臨床医用講義で有名なDr.孝志郎の解説で、理解しやすく記憶にも残りやすい講義を聞く事ができる点も魅力です。
まとめ
新制度によって変化した外科専門医試験の合格率や対策方法について解説しました。制度の移り変わりで試験の傾向も変わる可能性があるので、最新の情報を把握しておくことが大切です。最新の情報をキャッチし、定着しやすい本質的な学習をおこなっていきましょう。
試験対策には、ぜひドクターズスタディをご活用ください。